2008年9月20日土曜日



酒を飲める人はエラいと思っているようなところがある。

飲んで飲めないことはない。御返杯ぐらいなら大丈夫だし、特定の種類のアルコール、たとえばウォッカとかなら2、3杯はいける。

でもそれだけだ。だいいち気持ちよくならない。気分の昂揚もあるにはあるが、ほんの一瞬で終わってしまう。飲んでいる間、ほとんどの時間は気持ちが悪い。

記憶がなくなったためしがない。その前に気分が悪くなって嘔吐してしまう。

酔っぱらって女性に告白したり、なんてのもやったことがない。

その上金もかかる。酒飲みでないから、乾き物だとアテにならない。だからおかずっぽいものをアテにしてしまう。酒が進まない分、箸は進む。腹はふくれるが、結局は吐いてしまう。支払いもかさんでしまう。これ以上の無駄遣いはない。

まったく何のために酒を飲んでいるのかわからない。いつも、これなら喫茶店でコーヒーでも飲んでいた方がマシだと思ってしまう。

ところがまわりを見回すと、実に楽しそうに、皆酒を酌み交わしている。何がそんなに楽しいのだろう。自分には苦痛なだけなのに。

こんなんだから飲み会とか大嫌いだ。とくに会社の飲み会なんて最悪だ。こっちは酒なんかおごってもらっても少しもうれしくないんだよ。ましてや割り勘とか、もっと酷くなると会社の下の子を連れて行って、勘定はこっち持ちなんて地獄じゃないか。

それでもやっぱり、酒を飲める人はいいな、と思ってしまう。自分にとっては苦行でしかない時間が、至福の時間になるわけだから。エラいな、と。いやエラいか?

これでも未成年の時までは、わりと普通に飲めた。まったく自慢することじゃないが。

血族に特別アルコールに弱い人間がいるわけじゃないし、今ここまで弱くなったのは、あの日が原因としか考えられない。

大学に入学してサークルなんかに入ると、必ず新入生歓迎コンパなるものが催される。

それはいいのだが、一発芸みたいなものを要求されるのは閉口した。それを何とかクリアしてホッとしていると、新入生早飲み大会なるものが始まった。

早飲みとはもちろん酒である。それも日本酒。

こういう行事は、数年前急性アルコール中毒で倒れる、最悪の場合死に至ることもあって問題になったから、今でも行われているかどうか定かではないが、当時は当たり前のように行われていた。

要するに新入生の男子のみで、一気飲みをさせるのである。

当時の自分はさほどアルコールにたいする拒否反応がなかったから、日本酒コップ一杯ぐらいわけなかった。

しかし罠はここからである。

「うーん、どっちが早かったかな。もう一回やってみよう」と、再度一気飲みが始まる。

一度や二度ではない。結局10杯は飲まされただろうか。

それでもそこまで堪えず、その後も、わりと普通に先輩たちと談笑していた。

ところが、突然のように、猛烈な吐き気がおそってきた。

トイレに行こうと思うのだが、足下がフラついてまともに歩けない。

ボロボロになりながら、トイレにたどりつくと、神でも宿ったかのように、出るわ出るわ。

その後の記憶はおぼろだ。たしか先輩の車で家まで連れて帰ってもらい、死んだように眠った。この時点でまだ夕方だったが、目が覚めた時には翌日の午後になっていた。

これ以降、急速にアルコールにたいして恐怖心が芽生えるようになった。さらにこの年の秋、学祭でビールと日本酒、その他もろもろのチャンポンを飲まされたことが決定打になって、とうとうほとんど飲めなくなってしまった。

半分は精神的な問題だと思う。酒を飲むイコール気分が悪くなる、という図式が自分の中に染み着いてしまっている。

でも、どうしても、というシチュエーションになったら飲めるのだから、先天的に弱いわけじゃなんだろうな、とも思う。

だからといって、もう今更克服しようという気もない。一時期ひとりでいる時に、自分のペースで飲めるようになろうとチャレンジしたことがあったけど、それも頓挫した。

まぁいい。損かもしれないけど、その分他に楽しみをみつければいいや、と思えるようになった。そして酒を飲むよりも「酔える」ことも見つかった。

酔えればいいんだよ、酒なんか飲まなくても。酒の力がないと酔えないなんて悲しいねぇ!と負け惜しみをひとりごちたりするのである。