2008年9月6日土曜日

長距離バス



長距離バスはわりあい好きな方だった。

10時間以上かかるような超長距離便に乗ったことがないので本当のつらさを味わう前に現地についてしまう。さすがに4列シートはつらいのだけど、3列シートなら、時間は倍かかるものの下手すれば新幹線より快適なくらいである。

よって「水曜どうでしょう」の壇ノ浦レポートのような状況に追い込まれたことはない。

そして何より安さが魅力だ。移動に金を使うのはばからしいと考えるタチなので(その分旅先で金を使える)、安いに越したことはないのだ。

つまり時間がかかるのを折り込み済みならば、新幹線や飛行機よりも快適に安く行けるのである。魅力を感じないわけがない。

一切長距離バスに乗らなくなったのは年のせいもあるが、ある出来事がきっかけとなった。一年ほど前のその事件以来、長距離バスとは縁を切った。

その日、神戸から東京へ向かう予定だった。

スケジュール的に余裕があることから迷わず長距離バス移動を決めた。ちなみにバスの発着場所は大阪駅である。

ところが当日、JRが人身事故か何かで遅れに遅れた。「5分遅れております」というアナウンスがすぐに15分に変わり、さらに15分ほどして、運行再開は未定です、に変わった。

大阪駅へ、バスの発車時刻より30分以上前に着く予定だったが、どう考えても絶望的になった。

仕方がない。私鉄の駅までタクシーを飛ばし、とりあえず大阪駅へ向かうことにした。

が、やはり間に合いそうもない。おそらくバス発車時刻より5分は遅れる。やむを得ない。マナー違反は承知の上で、私鉄の電車内からバス会社に電話をかけた。

「コレコレシカジカの理由で遅れる。ついては発車時刻を5分遅らせてもらえないか」

答えはノーであった。理由は他の乗客に迷惑がかかる云々。

まぁわからない理由ではない。しかしそこのバス会社はJRバスという名前が示す通り、JR西日本とはグループ会社のはずである。

当然人身事故で一部区間の電車が止まっているという情報は入っているはずだし、実際自分以外にもバスに乗れなかった人がいたかもしれない。

(ボカして書いていたが、自分の家はマイナー路線ではなく、神戸線という有数の乗降客を誇る路線なのだから間違いないと思う)

とはいえマナー違反をおしてまで電車の中での電話での押し問答は迷惑きわまりない。とりあえずいったん引くことにした。

大阪駅に着いた。とりあえずバスセンターに向かった。念のため発着場に行ったが、やはりバスは発車した後だった。

このままではいくらなんでも納得しがたい。それにこのままでは自分は東京に行けない。何とかしなければとバスセンターの受付へ乗り込んだ。

ひとつ目の主張はこうだ。

まだ東京行きのバスはあるはずだから、それに乗せてほしい。

答えは満席だから無理です。わからんでもない。

次の主張は

差額を払うから新幹線に乗せてほしい。

これも無理だという。

ただし払い戻しはするらしい。が、これがよくわからない方法なのである。

何でも一度遅延証明書、その他書類を郵送し、その上で振り込みます、と。

いやいや、全然意味がわからない。遅延証明書は手元にあるし、書類もこの場で書けばいいだけだ。レジもあるのだから払い戻しができない理由もわからない。

しかも手数料として2000円ほど取られるという。

さすがにそれはちょっとおかしいんじゃないのというと

「規則ですから」

この一言でカチンときた。き、規則だぁ~?

思わず人生幸朗の如く「責任者でてこい!」と叫んだ。いや実際には嫌味ったらしく「責任者の方はおられますか」と馬鹿丁寧にいったのだが。

少々お待ちください、と対応していた女性は事務所の奥に入ったきり10分もでてこない。

15分ほど経っただろうか。さっきと同じ女性があらわれ「あいにく所長は席を外しております」ときた。

嘘つけ。不在かどうかを確認するのに15分もかかるわけがないだろ。いったいどれだけ広い事務所なんだ。外から見る限り、事務所の広さはだいぶ大幅に見積もっても20平米もないぞ。

さすがに埒があかないと踏んだ自分は、もう結構です、とその場を後にした。

とはいえ怒りがおさまるわけではない。そもそも大幅に遅延したJR西日本に責任があるんじゃないか。こうなったら駅長室に乗り込むしかない。

駅長室は客は誰もいないものの、数人の職員が次から次へとかかってくる電話の対応に追われていた。中には自分と同じように便に乗り遅れたじゃないかみたいな苦情もあったのかもしれない。

そのうちひとりの若い職員が自分の存在に気づき、自分が今の状況を説明するとすぐに詫びた。すると今度は駅長が自分に近づき、平身低頭に頭を下げた。

しかもさきほどの若い職員がJRバスに説明にいってくれるという。(駅長室とバスセンターは目と鼻の先だった)

思えば何年前だったか。宝塚線の脱線事故の大惨事以来、JR西日本の職員の態度が少し変わったような気がする。

それまではちょっと横柄な感じだったのが、事故以降、不快感のない応対になった。

この事件から先立つこと半年。自分はうっかり電車内に忘れ物をしたのだが、この時の応対も非常にさわやかなものだった。(忘れ物は無事発見された)

電車が遅れたのだからJR西日本が謝るのは当たり前かもしれない。しかしわざわざJRバスまで説明にいってくれる(しかも軽い非常事態のさなかに)というのは実に誠実で、怒りはみるみるおさまった。

反面JRバスの応対はナメたような態度だった。まるでこっちがいいがかりをつけるかのような(まぁ一種のいいがかりといえなくもないが)応対に終始した。

結局きちんと会話をしてくれたら自分もここまで怒ることはなかったと思う。別にあやまらなくてもいいし、規則なんだったらそれもしょうがない。でも面倒そうに応対したり、マニュアル通りのことしかしゃべらなかったり、挙げ句は嘘までつく、その行動に相手が怒る(たとえ無意味だったとしても)ということがわからないのだろうか。

JR西日本の職員は一生懸命JRバスに説明した。しかし話はまったく通らなかった。もうそういうところなんだ。しょうがないよ。

若い職員はバスセンターをでた後、お力になれずすいません、と頭を下げた。でも自分はうれしかった。もう十分だよ。だから自分はこう返した。

「うれしかった。ありがとうございました。がんばってください」