2008年9月25日木曜日

狂人ゲーム



友人のE宅に行くと、部屋にこもって遊んでいる。

40前後の男どもが何をやってるかというと、延々ウイニングイレブンというサッカーゲームをしている。

しかしそれは「ゲームをしている」といえるのかどうか。

基本的にふたりともコントローラーを握っていない。試合中はただぼーっと見ているだけ。つまりはコンピューター同士に戦わせて観戦しているのだ。

しかも「ぼーっと見ている」と書いたが、実際には熱い歓声をおくっている。下手したら本物の、日本代表の試合を見ている時より熱くなってるかもしれない。

前はウイニングイレブンではなくベストプレープロ野球であった。

ベストプレープロ野球というゲーム、自分で操作はできない。監督となりサインを送ったりはできるが、それもやらない。

このゲームの最大の特徴、それは「名前を含む選手のデータを自由に変更できる」という点にある。

それを利用して全選手のデータを書き換えた。つまり全チーム、オリジナルチームで構成されているのである。

オリジナルチームのメンツは多岐に渡る。Eと関連のある人ばかりで集めたチームや自分と関連のある人ばかりのチームはもちろん、業者の人、芸能人やスポーツ選手、文化人をカテゴリ分けしてチームを作る。

その分け方がセンスの問われるところで、「こういう括りでチームを作ればおもしろいんじゃない?」という雑談の中から新しいチームが生まれていく。

しかも一チームあたり20人以上必要なわけだから、たとえばドリフターズでチームを作ろうと思っても足りない。そこで「荒井注は当然オッケーでしょ」、「坂本九も昔ドリフにいたらしいな」みたいな感じで埋めていくのだ。

ベストプレープロ野球は簡素きわまるグラフィックなのだが、だからこそ想像力が働きやすい。「おい、今の仲本工事、片手でライト前まで運んだぞ」みたいに。もちろん画面ではそんな細かいことは一切表示されていない。

これが5年ほど続いたろうか。EがPS2を買ったのをきっかけにウイニングイレブンに変わった。

ウイニングイレブンはベストプレープロ野球と違って自分で操作できる。しかしこれまた「選手のデータを自由に変更できる」という特色を活かしてイジりにイジりまくっている。野球ゲームからサッカーゲームになっただけで、結局やってることは変わらない。

しかもこのウイニングイレブン、時代が時代なだけに美麗なグラフィックなのだが、それに合わせてモンタージュ形式で「顔」も作ることができる。

Eは完全に職人のようになっていて、パーツが用意されておらず、通常非常に難しいとされる女性の顔まで作成できるようになってしまった。

顔だけでなく当然身長なんかも設定できるわけで、デカい人はデカく作れる。さきのドリフチームでいえば「じゃキーパーはジャンボマックスだな」みたいなことも可能になった。(もちろん制限があるので本物のジャンボマックスよりはだいぶ小さいが)

楽しそうでしょ?え、楽しそうじゃない?いったい何がおもしろいのかわからない?

うーん、やっぱりそうきたか。実際こんなに理解されない遊びも珍しい。Eなんか高校生の時からこういう遊びをやってみたかったが、誰も同調してくれる人がいなかったというし。

しかし、ひとりだけわかってくれそうな人がいる。といってもリアルの知り合いではない。

130Rの板尾創路氏だ。

さすがにオリジナルチームでやってるかどうかは知らないが、この人も野球ゲームでコンピューター同士に戦わせて観戦しているという。

おそらく自分たちの「遊び」に何の抵抗もなく、ふつうに入ってきてくれそうな気がする。とはいえ板尾氏と知り合いになる術があるわけではないが。

実はもうひとりいる。これまたリアルの知り合いではなく、しかもすでに故人だが。

その人とは、作家の色川武大氏。阿佐田哲也名義で「麻雀放浪記」を書いた、といえばピンとくると思う。

この色川氏、生前に対談でこんなことを告白している。

(以下「恐怖・恐怖対談」より引用)

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いつごろからか、カードをつくる癖がつきましてね。相撲でも野球でも、代議士でも、とにかく人の名前が利用できるものなら何でもいいんです。カードをつくりまして、トランプ類とかサイコロとかで一定の方式をつくって勝負をやらせたり、ゲームをやらせたりするわけです。

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いわば遊戯王などのハンドメイド版か。しかしこのハンドメイドという行為が限りなく自分たちのやってる「遊び」に近い。つまり自分たちのやってることは、このカード遊びの二十一世紀版というかハイテク版なのかもしれない。

それにしても、色川氏-板尾氏というラインの延長線上に自分たちもいるのだとすると、やはり自分もEも「かなりの変人」ということになるのだろう。

板尾氏がどういう人かはおなじみだと思うが、色川氏はもっとすごい。どこがどうすごいのかは数ある著書を読んでもらうのが一番てっとり早い。自身をモデルにした「狂人日記」といった書名をみるだけでも、ふつうの人とは全然違う。

たしかに自分たちのやってることは変を通りこして「狂」の部類に入るのだろう。だからこそ誰にも理解されなくてもしょうがない。だって板尾氏や故・色川氏のような人とやすやすと知り合いになれるわけがないわけで。

しかし、ウイニングイレブンの発売元であるコナミにだけはわかってほしい。何でかって?だってコナミがわかってくれたら、もっと顔のパーツを増やしてもらえそうだから。