2008年9月9日火曜日

分岐点



藤子・F・不二雄氏のSF短編をみると、氏がパラレルワールドにこだわっているのがよくわかる。考えてみれば「ドラえもん」も第一話で別の未来が提示されているわけだから、ドラえもんの世界全体がパラレルワールドといえないこともない。

(と書きながら気づいたけど「ドラえもん」(小学四年生掲載分第一話)こそ、氏が初めて描いたパラレルワールドじゃないか。いや「ウメ星デンカ」の「月面着陸」の方が先か)

ここで藤子先生の分析をするつもりは毛頭ない。自己紹介文にあるように、ここは「自分の過去の時間の一部を切り取って文章に起こす」、いわば自分史みたいなもので、順序こそデタラメだが、書いてあることは(多少の誇張はあるにしろ)基本的には事実に基づいている。

40年生きてきてんだから、些細な、取るに足らないこともあれば、血となり肉となったような出来事、あまりにも辛く、記憶に蓋をせざるを得ないこともいっぱいあった。

自分は「すべての出来事は何らかの必然性がある」と考えるタチなので、過去に遡って、あの時ああすればよかったと考えることはまずない。

ただし、あの時ああすれば全然人生が変わっていたかも、というのは何度かあった。これは後悔ではなく、もうひとつの未来はどんなもんだったのだろうという興味に他ならない。

自分はそれほどSFに明るくないが、藤子F氏が語るところのパラレルワールド的興味といっていいのかもしれない。

何度かあった、と書いたがあんまり深刻なことを綴ってもしょうがない。下世話な話を書く。

今から10年以上前、ある女の子のことが好きだった。最初はそうでもなかったのだが、会うほどに好きになっていった。

彼女とはつき合うかどうか微妙なところであった。いろんな事情があって、いや自分の心理的な問題もあって、はっきりつき合っているとは言い難い状況だった。

そんな時、とある事件があった。いずれ書くかもしれないが本題とは外れるので今回は詳細には触れない。とにかくこの事件をきっかけに自分は彼女が本当に好きなんだと確信した。

さてその翌日。仕事先の女の子から電話があった。

今日、空いているんで遊びませんか?と。

そういやこの頃は適当なことばっかりいってた。手当たり次第に「遊びにいかない?」と職場の女の子に声をかけていた。けしてモテてたわけではない。

その子、職場の女の子は今思い出してもキレイな顔立ちで、分けるならキツネ顔系だった。

何にしろそんな美人からお声がかかったのだから断る理由はない。

もうひとりの、自分が好きだった子はかわいい系で系統はタヌキ顔系。つまりこと顔に関しては全然違うタイプだったといってもいい。

女性がふたりでてきてややこしいので呼称をつける。タヌキとキツネでもいいのだがそれじゃ即席カップ麺っぽいのでやめる。かといってA子とB子じゃ「ちりとてちん」になってしまうし。

まぁ正反対ってことでNとSにします。Nがぼくが好きだったタヌキの方。Sが職場のキツネの方。

どこにいったか忘れたが、とにかく夕方まで遊んだ後、Sの部屋に招き入れられた。これは20代の男からすれば勝ったも同然である。

しかも一日遊んでみてわかったのだが、Sは思いの外ちゃんとした子で、顔立ちだけでなく人間としても立派なもんだった。

だがこの「ちゃんとした子」というのが逆に引っかかりだした。

前日自分はNと会って本当の気持ちを悟ったばかりである。これからはこの子と一緒にいようと決めたばかりだったのだ。

もしSが見た目だけの子なら話は違ってたと思う。でもこんなちゃんとした子を遊びで済ますわけにいかない。それは人間としてしちゃいけないことだ。

しかもこれも遊んでいるうちに気づいたことだが、Sは自分に好意を持ってくれているのがわかってきた。

何度も書くが自分は到底モテるたぐいの人間ではない。バレンタインのチョコレートの連続ゼロ記録は20年ほど続いたし、彼女ができるようになってからも、複数の女性から同時に好意をもたれたこともない。

そんな自分がふたりの女性、しかも見た目はまったく異なるがけして悪い顔じゃない、から好意をもたれるなんて、奇跡に近かった。

異性としてのつき合いの長さはNだし、好きなのもNの方だ。しかしSもけして見劣りがしない。ましてやこういう美人タイプと縁がなかった自分にとってはこれが最後のチャンスかもしれない。

完全に二者択一の状態になった。

こういう心理状態はNにもSにも失礼になる。結論をださなくてはいけない。それも一刻も早く。

結論を先にいうと、自分はNを選んだ。Sを振り切って帰るという決断(まぁ強く止められたわけじゃないけど)はかなり勇気がいった。据え膳食わぬはなんちゃらという言葉も頭をよぎった。

それでもNを選んだのだ。やはりNを裏切ることはできなかったし、Nに未練を残したまま、Sとどうにかなるのはあまりにもマズい気がした。

数年後、Nとも別れた。Sは今どこで何をしているかもしらない。

どっちの決断が正しかったのか、それは今でもわからない。あの時Sを選んでいたら、今も仲良くやってる可能性だってある。

しかし今わかるのは、さんざん悩んだ末に選んだNとはすでに別れているということだけだ。

今更あの時Sを選んでおけば、とは思わない。Nを選んだおかげで、N本人とは別れたが、それをきっかけに知り合った友人は今でも大切な友人だ。だからけしてNを選んだことが失敗だとは思わない。

でも藤子F氏よろしく、パラレルワールドがあったら、ちょっとそっちの選択肢の未来ものぞいてみたい気がする。仮にそっちの世界が幸せそうでも後悔はない。ただの興味本位にすぎない。

ま、どっちを選んでようが、結局は自分なのだから、たいして変わらないような気はするのだけど。