2008年9月26日金曜日

隔離



もっとも酷いバイトの話を以前に書いたので、今回は「もっとも危険なバイト」というテーマで書こうと思う。

危険なバイトというと必ずでてくるのが「ホルマリン漬けの死体を洗うバイト」。やったことがあるヤツに出会ったことがないし、そもそも実際にそんなもんがあるのがどうかわからない。

もうひとつ「新薬の人体実験」というものがあるが、これは本当にやったことがある。

その時のことは口外しないように誓約書まで書かされたのだが、だいぶ時間がたってるし、詳細に触れなければ大丈夫だろう、という判断で書かせていただく。

1996年の話だ。いや、テストには1995年からいってただろうか。

新薬の人体実験といっても誰でもできるわけじゃない。どういうルートでそういう話がきたのかは忘れたが、とにかくそういうバイトがあるということで、まずはテストを受けに行った。

テストといっても難しいことをするわけではない。要するにかなり詳しい身体検査をする。実際に新薬の実験を行っても大丈夫かどうか調べるわけだ。

この身体検査、かなり厳密なもので、後年になって会社の身体検査を受けたが、あんなもん子供の手遊びみたいなもんだ。それぐらいちゃんとしていた。

おまけに身体検査を受けるだけで、わずかばかりの謝礼も発生する。これは貧乏な当時の自分にはかなり助かった。

が、なかなか本戦(人体実験ね)には入れない。どうも白血球の数がどうちゃらこうちゃらという問題があったらしい。

何度も何度もテストを受けて、あきらめかけた頃になって、二泊三日の短期間のコースに入れることになった。

入所は夕方からで、その日の夕食にはステーキがでた。さすがにステーキはその時限りだったが、食事はどれもおいしく満足できた。

が、食事は朝・昼・夜の三回のみ。間食も一切できない。ドリンクも備え付けのお茶しかダメ。途中外出はいかなる理由があろうとも厳禁だった。

起床後は何度も何度も採血と血圧を測られる。それが午前中まで続く。

こう書くと不自由きわまりないが、後は何をしようが自由である。その建物の中にいる限り、寝てようが、漫画を読んでようが、ゲームをしてようが、テレビを見てようが、かまわない。

さすがに長期コース(10日間)ともなると外出できない不便さから苦しくなるようだが、二泊三日ぐらいだと、まったくもってどうってことはない。

ここで簡単なQ&Aを。

・ギャラがいいときいたけど

よくこういうバイトはギャラがいい、というが、実はそれほどでもない。時給にすると全然たいしたことがないのだが、24時間分支払われるのでかなり大きな額になる、というわけだ。

・新薬の危険性は

実はこれがよくわからない。一応説明してくれるのだが、こっちに薬物についての知識があまりない以上、それがいったいどれほど危険なものなのかの見当がつかないのだ。

動物実験済みであるのはいうまでもないが、人体への投与は初めてなわけで、後遺症がでないとも限らない。やはりそれなりの自己責任が必要ではないか。

さて記憶力の悪い自分がはっきりと「1996年の話」と書けるのは、ちょうどアニメの「こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)」の第一回の放送を、入所中に見たからだ。

とにかく入所中はヒマなので、館内には漫画の本が山ほどおいてある。とくに「こち亀」はほぼ全巻揃っており、それまであまり読んだことがなかった「こち亀」を一気に読んだ。

この時たまたま友人も入所しており、漫画に飽きたらその友人と話をした。

「両さんの声、ラサール石井らしい」、「どんな風になるかまったく見当つかんな」と結局「こち亀」の話になる。そしてまた漫画の「こち亀」を読む、といった具合だ。

詳細を書かなければ大丈夫だろう、とは書いたが、本当のところ、細かいことはあまり覚えてないのだ。覚えているのは「こち亀」に関することだけ。何しろこの漫画を読んだのは後にも先にも、この時だけ。

だから「新薬の人体実験ってどんな感じなんですか」と聞かれれば、突然狂ったように「こち亀」のことを話す。でもそれはけして新薬の副作用ではない。