2008年9月7日日曜日



その日ふたりの男は疲れ果てた表情で、公園のベンチに座っていた。

と書くと三文小説の出だしみたいだが、だいたいこんな感じだ。ひとりは自分。もうひとりは自分より10歳若い、まぁいや後輩だ。

とにかくふたりとも疲れ果てていた。さんざん歩き回った上、直前に不快なこともあった。正直会話する気力も失っていた。

突然、後輩の男はぼそぼそと喋りはじめた。

「この公園、○○(某テレビ局)しかロケで使えないんです」

そうなのか。そういえば○○局しかロケで使ってるのを見たことがない。

「そうなんだ。知らなかった」

「・・・・嘘です」

うーん、冗談になってない。笑えないどころか怒りすらこみ上げてくる。

その時は怒る気力もなかったのだが、その公園に行く毎に、この時の会話を思い出して、怒りがこみ上げてくる。

それはさておき、ジョークとしての嘘というのは本当に難しい。さきほどの事例のように、一歩間違うと相手の怒りを買ってしまうことだってある。

そんなことをいいながら、かつては自分もくだらない嘘をよくついた。しかもたんなる思いつきなので、根拠もへったくれもなく、ただその場で理屈をひねり出す、その程度のもんだ。

今から20年ほど前、なにぶん古い話だ。たしか数名でファミレスに行った時のことである。

おそらくご飯時ではなかったのだろう。自分は当たり前のようにコーヒーを注文した。

ウェイトレスがコーヒーをテーブルに運んでくるやいなや、突然後輩の女性(当然ながらさっきの男性とは別人)が自分の前に食塩を差し出した。

「●●さん(※アタシのこと)、コーヒーには塩を入れるんですよね」

は???である。そんなことをするわけがないではないか。コーヒーに塩を入れるなんてヤツ本当にいるのか?

「でも●●さん、前にコーヒーには塩だって。その方が身体にいいからって」

困った。言ったかもしれない。たぶん元ネタは藤子・F・不二雄氏のSF短編「定年退食」だろう。たしかにそんな展開があった。

おそらくこのネタを引用して、適当にそれらしい理屈をつけて吹聴したのだと思う。

それはわかった。でも実際何にもおぼえてないのだ。いかにも自分がいいそうな嘘なのはたしかだが、その時の状況がさっぱり思い出せない。しかたがない。とりあえず、ああそうだった、やっぱ塩だよね、と適当に取り繕うしかなかった。

しかし悲しきかなは自分の記憶力のなさよ。これほど記憶力の悪さを恨んだことはない。

この件で学んだことは、覚えられない嘘はつかない。あとでフォローできなくなっても知らんで~!