2008年9月24日水曜日

犬に飼われた猫



この間は個人で飼っていた猫の話を書いたから、今度は実家で飼ってる猫について書く。

震災の時、母親が犬も連れて大阪へ疎開していた、とは前回書いたが、この犬、この時点で15歳ほどだったからかなりの老犬だった。

もうだいぶ足下がおぼつかなくなっていたが、それでもそれなりに元気で食欲も旺盛だった。しかし震災で車で連れ回され、たとえ一週間とはいえ見知らぬ土地で暮らしたのがよほど堪えたと見え、これ以降急速に老け込んだ感じになってしまった。

結局震災から半年後に、この犬は死んだ。自分が中学に入る頃にもらわれてきた犬なので、思い入れも強く、たいそう悲しかった。

しかしもっと悲しんでいたのは母親だった。いわゆるペットレス症候群というヤツである。そしてそれから半年ほど経ったころ、保健所から一匹の小型犬をもらって帰ってきた。

もう自分はすでに実家に住んでいなかったし、母親が何をしようが勝手なのだが、正直この犬が好きでなかった。

もともと小型犬をあまりかわいいと思えないのもあるが、母親の溺愛が酷く、こっちが愛情を持つ隙がないのが大きかった。

この小型犬をもらってきて、さらに半年経った頃、”犬が猫を飼い”だした。

嘘でも誇張でもなく、本当に犬が猫を飼い始めた。経緯を詳しく書きたいが、あとで電話で聞いただけで、その場にいたわけではない。自分が聞いた範疇で書く。

母親が小型犬を散歩させていると、一匹の子猫が寄ってきた。どうも捨て猫らしいが、母親にではなく「犬」についてきた。

あんまりしつこく犬に寄ってくるので、まあいいか、ということで実家で飼うことになったらしい。

とはいえ餌は母親があげてるわけだし、トイレだってそう。

しかし断じて飼い主は母親ではなく、犬だった。それは実家に帰った時に嫌がうえにでも認識させられた。

とにかくこの子猫、すべて犬に右へ倣え、なのである。

後をついて行くのはもちろん、犬が喜ぶ人には自分も懐く、犬が嫌がる人は自分も逃げる、といった具合で、寝るポジションからくつろぐ場所まで、すべて犬の真似をしていた、といっても過言ではない。

挙げ句、散歩にまでついてくる。所詮猫だから行動範囲から外へは出ないが、範疇のぎりぎりまでついていって、散歩から帰ってきてもそこで待っており、一緒に帰ってくる。

だから何だか、およそ猫らしくなく、犬が二匹いるようなもんだった。

三年前、小型犬が死んでから猫の様子が変わった。何しろ飼い主が死んだのだ。おそらくどうしていいのかわからなくなったのだろう。

とにかく狷介になった。今までふつうに接してきた近所の人から逃げるようになった。大丈夫なのは母親と自分だけ。不思議なのは、この猫とまったく一緒に暮らしたことがない妹も大丈夫だったそうだ。何かわかるのかねぇ。

どうも狷介になった理由は、飼い主である犬がどこかに連れていかれたと思っているぽい。だから身内以外の人間に異様な警戒を示すようになったのではないか。

ただ狷介になったのと同時に、猫らしい行動が増えた。

全然甘えてこなかったのに、ゴロゴロいいながらすり寄ってくるようになったし、それまで家のどこかで寝ていたのが、今では母親と一緒にベッドで寝ているようだ。

おそらく今でも飼い主の犬が帰ってくるのを待っているのだろう。いくら猫らしさが出てきても、やっぱり母親を飼い主の飼い主にしか思ってないっぽい。

天気がいい日はひなたぼっこをしている。ずーっとしている。まるで何かを待っているように。

でもな、お前さんの飼い主はもうこの世にいないんだよ

見てただろ?飼い主が死ぬところを

しかしあれだ、安心しろや

誰もお前さんをどこかへ連れて行ったりはしないから

のんびりとな、身体だけは気をつけてな

何しろお前さんは病院嫌いだからな

また気が向いたら甘えてくればいいからさ

まあ、猫らしくても猫らしくなくても

飼い主が誰でも、そんなことどうでもいいや

とにかくさ、まだまだ生きてていいんだよ

お前さんがもういいって思うまでな