2012年5月24日木曜日

合いの手の妙

ほれ、あの、餅つきってあるでしょ。まあ誰でも一度はテレビで見たことくらいはあると思うんだけど、最初すんげえ怖くてね。あの餅をひっくり返すというか水をつけるというか、あの役の人がキネで手を潰されそうで。生で見たりしたら本当に怖いんですよ。一瞬のうちに白い餅が真っ赤に染まりそうで。
でもそんな事故はほとんど聞いたことがない。バッチリ息を合わせて餅がつきあがる。これは呼吸があってないとできないことで、ある意味ものすごく音楽的です。

音楽的じゃなくて音楽そのもので餅つき的なのは「合いの手」というやつです。民謡なんかによくあるでしょ「アーハイハイ!」みたいなの。あれもちゃんと呼吸があってないとできないし、実際非常に難しいと思うのです。
合いの手の名手といえばザ・ドリフターズにトドメを刺すでしょう。
レコードになった曲でもいいのですが、より一発録りに近い「ドリフ映画だョ!全員集合」を聴けば、いかに凄いかわかると思います。
いかりや長介自ら「ドリフはミュージシャンとしても四流」と語ってますが、歌唱の方は下手ではないけど上手くもない。コミック的な歌い方をしているのを差し引いても、それこそ植木等なんかに比べると劣るわけです。
しかし合いの手の上手さはクレージーキャッツ以上で、とにかく全員が上手い。

これはレコードテイクになりますが「ミヨちゃん」なんか震えがくるくらい上手い。加藤茶のヴォーカルにいかりや長介が絡むのですが、セリフの挟み方の間合いも合いの手も、音楽的かつ笑える間なんです。

私たちの笑いは、ネタを稽古で練り上げて、タイミングよく放つところにある。私たちはバンドマン上がりらしく、「あと一拍、早く」「もう二拍、待って」とか、音楽用語を使ってタイミングを計りながら稽古した。今では一般の方も使う、「ボケ」「ツッコミ」「ツカミ」というような専門用語すら当時の私たちは知らなかった。ちょっとでも間が狂ったら、ギャグがギャグにならなくなる。それを恐れた。(いかりや長介著「だめだこりゃ」より)


といかりや長介は語っていますが、もっと厳密な、ゼロコンマゼロゼロゼロ1秒みたいな、絶妙のタイミングなんです。これがそれこそほんの一瞬でもズレたら音楽的でなくなるし、何より面白くなくなる。
「ミヨちゃん」で特に凄いのが、スリーコーラス目で突然いかりや長介が歌いはじめるのですが、もうね、浮かぶのですよ。加藤茶が歌おうとした瞬間にいかりや長介がマイクを取り上げて歌いはじめる様子が。これもほんのちょっと前のめりというか食い気味でいかりや長介が歌いだしているんです。

後年加藤茶はラップを歌ったりしてましたが、もう天性のリズム感で、いや加藤茶に限らず全員が天性のリズム感があったとしか思えない。でないと「合いの手で笑わせる」なんていうとんでもない芸当ができるわけがないのです。
アタシはずっと「今の芸人と昔の芸人の比較なんてできない。どっちが上かなんかいえない」といってきましたが、ドリフより歌が上手い芸人は数あれど、こんな絶妙な合いの手ができる芸人やコメディアン、そして本職の歌い手もいないと断言できます。もしかしたらザ・ドリフターズというチームの本質は合いの手にあるのかもしれない、とすら思うわけで。