2012年1月15日日曜日

ロボトミー殺人事件を読み解かない

一時期よくブログに「うつ病」について書いたことがありました。
これは知り合いにうつ病の人がふたりもいたためで、特にひとりは身内関係だったのでいろいろ調べないわけにはいかなかったのです。
調べてわかったのは、いわゆる特効薬のようなものは存在しない、ということです。もちろんいろいろ研究が進んで症状が改善する薬も開発されていますが、特効薬というほどのものはまだ存在しません。
ふと気になって、外科的な処置はないのかと思ったのですが、どういう調べ方をしていいかわからず、そのまま放置していました。
そんな時、安藤健二著「封印作品の謎」というルポライトを読みました。この本に関しては以前詳しく書いたので割愛しますが、この本の中で「ブラックジャック」に関する章があります。「ブラックジャック」とは、もちろんあの手塚治虫の名著であり、その中の一本、どうしても封印を解けない作品がある、とのことでした。
どうしても封印を解けない一話、それはロボトミーという脳外科手術を扱った回でして、ロボトミーとは脳の、前頭葉の一部を切除してしまう、という、今考えると何とも荒っぽい手術なのですが、つまり「ブラックジャック」のある回はロボトミーの描写に問題があったわけでして。

この手術を施すことによってうつ病が改善する可能性がある、というわけですが、まあだいたいわかると思いますが、脳の一部を切除する、というのは非常に危険を伴うわけでして、危険といっても失敗して死亡、ということではなく、人間としての思考が困難になってしまうのです。
有名な例ではジョン・F・ケネディの妹がロボトミー手術を受け知的障害になったといわれています。

日本でロボトミーといえば、ロボトミー殺人事件でしょう。
これはスポーツライターとして活躍していた男性が妹夫婦の家で暴れたことをきっかけに「無理矢理」ロボトミー手術を受けさせられ、その後、手術を施した医師の家族を殺害した事件です(医師は帰宅しておらず無事)。
スポーツライターはロボトミーの術後、感受性が極端に落ち、スポーツライターを続けることが困難になりました。そのことを恨んで(逆恨みとはいいづらい)医師の家族を殺害したわけです。
そもそもロボトミー手術を受けた患者は、感受性ややる気の低下と引き替えに非常に穏和になるといわれており、穏和になるどころか殺人事件までいってしまったことにこの事件の特異性があります。

うつ病の話に戻ります。
うつ病の人にとって一番困難なのは感情のコントロールが困難になることで、悪い思考のスパイラルから抜け出せなくなってしまいます。ですから当然、うつ病患者の願いは、心穏やかに生きたい、となるわけですからロボトミーに興味を示す人も少なくないでしょう。
しかしロボトミー殺人事件は、現在日本で禁止になっているロボトミー手術への抑止力になるはずです。仮に脳の一部を切除したところで、もっと極端な悪い結果になる可能性すらある、というね。