2013年1月20日日曜日

アタシが始めて映画に出た日

俳優や監督に「あの映画はどんな感じだったんですか?」なんていう質問は定番です。要は裏話教えてってことなんですけど、こんな時「いやぁ、あの頃はメチャクチャ忙しくて、あんまり憶えてないんですよ」てな返答は珍しくありません。
そりゃ実際メチャクチャ忙しかったろうし、映画が作られたのが数十年前とかなら憶えてなくて当然なんですが、ファンとしては何となくガッカリしてしまいます。

さて、アタシは何度も書いてます通り記憶力が非常に悪い。だからもし数十年前の映画に出てたとして、その当時のエピソードを憶えているかとなると、たぶんほとんど憶えてないと思う。
いや、遡ること20年ほど前、一度だけ映画に出たことがあります。もちろんエキストラで。しかもいわゆるピンク映画。でも一応「映画」であることには変わりない。
そこで、実際どれくらい憶えているものなのかの実験として「もしアタシがこの映画について何か喋れ」となったとしての架空インタビューをやってみたいと思います。

ー映画に出たきっかけは?
「その前にね、これは完全にバイトですけど、カラオケ用のビデオに出たことがあるんですよ。ブキーマンが歌った「パチンコマン」の。たしか大阪の住之江にあるパチンコ屋で撮影したと思う。その時の監督がピンク映画の監督だったんです」

ーその縁でエキストラに呼ばれたと
「その辺ははっきり憶えてないんです。ただ大学の後輩が監督と知り合いだったんで、カラオケビデオの時もピンク映画の時も、後輩経由だったような気がする」

ーどんな内容だったんですか?
「何しろタイトルすら忘れたからね。憶えているのは新東宝系の映画だったってことぐらい。僕は東宝のファンなので、新東宝といえば、その当時はまったく関係ない会社とはいえ、過去に東宝から枝分かれした会社が母体になって作られたわけだから嬉しかったのは憶えてます」

ー主演が誰かとかも憶えてないんですか?
「憶えてない。まあ僕はピンク映画には明るくないから。ただ台本に同じエキストラとして、「プロジェクトX」のナレーションでお馴染みの、あの人の名前がありました。といっても撮影は別なので会ったわけじゃありませんが」

ー無名時代ですか?
「とんでもない。その時点でかなりの有名人です。おそらく監督の友人かなんかで特別出演みたいな感じだったんでしょうね。ちなみに僕の役名が「客H」で、その人は「客I」だったんで、僕の方が格上だと言いふらしてました(笑)」

ー撮影はどんな感じでしたか
「当日までどんなことするか、まったく知らなかったんです。それで現場に行ったら監督から開口一番「とりあえずシャワー浴びてきて」って(笑)。んで台本を渡されたんですけど、エキストラなのにけっこうセリフがあるんですよ。たしか5行くらいはあったはずです」

ーピンク映画ということですから裸ですよね
「そもそも何をするかすらわかってなかったからね。僕はその日、大阪にある某サウナでパクったパンツを履いていったんです。水色のデカパン。脱ぐとわかってたら、こんな小汚いパンツ履いていきませんよ。もちろん衣装用のパンツは用意されてたんですけど、監督がサウナのパンツを面白がって、それで撮影しようということになりました」

ーパンツ一丁での撮影
「ファッションヘルスの客役だから当然途中で脱ぐわけです。角度的に股間は映らないんだけど、一応前バリしてね。最初で最後ですよ、前バリなんてしたの。ところがこの前バリってのが実にザックリしたものでね。黒のゴミ袋を適当に切って、ガムテープで張り付けただけ。
まあ役柄的には股間を咥えられるんだけど、本当にフリだけだからオイシイことはまったくない。相手の女優さんも、いわゆるピンク女優じゃないし。でもフリだけでも顔を近づけて手を添えてユサユサはするんで、ありゃ、こりゃヤバい、くらいはなりました。フリだけでアソコの形が変形することほどみっともないことないと思ったから必死で食い止めましたけど。まあ当時は20代前半だし、目の前には下着姿の綺麗な女優さんがいるんだからしょうがないんだけどね」

ーそのシーンだけですか
「そのシーンだけです。でもその後に簡単なアフレコをやったんです。あ、これはいっておかなきゃいけないと思うんだけど、撮影はビデオテープじゃなくてフィルムです。しかも同録じゃないんでアフレコしなきゃなんない。といってもマイクに向かってセリフをなぞるだけなんですが。
ま、ピンク映画なんでセリフもとても恥ずかしいものです。それでも身体を動かしての演技をしながら、とかなら、まだ役に入っていけるからそれほどでもないんだけど、着衣の状態で、壁際に吊るされたマイクの前で「ああああー!そこだよそこ!」とかハイテンションで叫ぶのは、いろいろ難易度が高すぎました(笑)」

ー完成した映画は見た?
「見てるわけない。だいたいちゃんと完成したのかも、どこで公開されたのかも知らないし」

ー見たいと思う?
「今更見てもね。ただ当時の僕は、今の中年太りとは別人の、超がつくほどのガリガリだったんで、そこは見てみたいかな。何しろ裸だし」

ま、こんなもんですか。
お、意外と憶えているなってとこと、逆に何でタイトルすら憶えてないんだよってことが混在してますな。
しかしインタビューとか難しいわ。これはあくまで「架空」なんで、自分で設問を考えてるし、ゆっくり思い出しながら書けるし、オチまでつけられたけど、これをアドリブでやるのは至難の技だわ。
ああ、有名人というかインタビューされるような人間じゃなくて本当によかった。