2012年4月30日月曜日

第一次レトロブームを考察、てもんでもないけど

自炊をしてみて手元に意外なほど「昭和関連本」を持ってたことに気がつきました。
アタシは「三丁目の夕日」(あくまで映画版の話ね)以降の昭和30年代ブームにはほとんど興味を持てなかったのですが(とはいえいろんな<絡み>から調べざるをえなかったんですが)、つくづく2000年代の昭和30年代ブームは1980年代の縮小再生産だったんだなと思い知りました。

1980年代に入って、何のことか突然懐古ブームが始まりました。しかし記憶で書くならこの懐古ブームは「昭和30年代ブーム」ではなく「1960年代ブーム」だったように思います。
時代を括るには実は「昭和30年代」よりも「1960年代」の方が良いのですが、2000年代の懐古が昭和30年代の括りになったのは「三丁目の夕日」第一作の舞台設定が昭和33年だっからでしょう。つまり1950年代後半。
昭和30年代前半=1950年代後半は戦後復興と高度成長の接続部みたいな時代で、これはこれで面白いのですが、面白さがシブめな感じなので本来あんまり一般受けはしないはずなんです。
ところが「1960年代」という括りにすると、恐ろしいくらい時代が動いてるのが感じられますからね。だってアンポからアンポまでなんだもん。

さてさて、前置きが長くなってしまいましたが、1980年代の1960年代ブーム(何かややこしいけどご勘弁を)とはどういうものだったのか。
おそらくブームの仕掛けというか発想の<もと>は映画「アメリカン・グラフィティ」あたりだったんではないでしょうか。
それまで日本には「文明開化の明治時代」や「大正ロマンの大正時代」みたいな、比較的遠い近過去(これまたケッタイな表現ですが)みたいなブームはありましたが、たかだか10年や20年前を懐かしむ風潮はなかったはずなんです。
アメリカン・グラフィティの日本公開が1974年。レトロブームは1980年代に入ってからですからずいぶん寝かせたものです。機が熟すのを待っていたともいえるかもしれませんが。
1981年より平凡パンチに連載された小林信彦著「夢の砦」あたりが基点となり、1985年前後に大挙出版された1960年代大百科的ムック、そして1986年よりスタートしたTBS「テレビ探偵団」でブームは頂点に達したといっていいでしょう。
実際は1970年代後半から「懐かしのテレビ番組」みたいな特番が各局で放送されていたのですが。スタジオ収録でもないのに「うわーっ!」とか「懐かしい!」みたいなSEが特徴的なやつです。(「ドリフ大爆笑」などでお馴染みの笑い声のSEはラフSEっていうけど、こーゆー歓声は何SEっていうんだろ?)

この第一次レトロブーム(と言い切ってしまいます)の強みは何といっても「本物をゲストに呼べる」ことにありました。
「テレビ探偵団」は実際に1960年代にお茶の間で活躍していた人をゲストに呼び、当時の映像を見ながら裏話を語ってもらう、という第二次(2000年代の方ね)では逆立ちしてもできないことをやってました。
第二次の場合、昭和30年代に活躍されていた方々は鬼籍に入っている場合が多かったですからね。

そしてもうひとつ。今より昔の映像が潤沢だったことがあります。
「当時は生放送が多く、またVTR収録の場合もビデオテープが高価だったため上書き録画され映像があまり残っていない」というのが定説です。
しかし今では現存が確認されていない映像がテレビ探偵団をはじめ多くの懐かし系番組で流されていました。
どうも第一次ブームが終わった後でテレビ局の社屋が次々と移転し、その時に大量に処分されたというのが真相のようです。

1990年頃というとすでにVHSビデオは普及していましたが、ソフトといえばほとんど映画(かAV)であり、今日のように懐かし系のテレビ番組がソフト化されることはごく稀でした。
「もうブームも終わったし、将来に渡って希少性がありそうもないし、何より邪魔だから処分してしまえ」てな発想だったのでしょう。

もちろん第二次ブームになってから発掘された映像もあるにはあります。しかし当時の映像も少ない、関係者もゲストに呼べない、しかもいろいろ権利関係の処理もあり(おそらく第一次ブームの頃は今よりおおらかだったのでしょう)、懐かし系番組はブームであるにも関わらず皆無に近い状態です。
もちろんスカパーの普及もあって、断片ではなくまるごと再放送、みたいなことも可能にはなったのですが。

というわけで第二次ブームはまことに味気ないものになったわけですね。
「実際にその時代を知らない、幻想としての昭和30年代」に、まだ幼少であったとしてもリアルタイムで生きていた人たちが違和感を覚えるのも当然で、ビートたけしが人情もへったくれもない果てしなく小汚いリアルな昭和30年代を再現したのは「幻想としての昭和30年代」に吐き気をもよおした、それだけの気がします。

もし第二次ブームが起こるなら本当は「懐古」ではなく「再分析」でなければならなかったはずで、手前味噌ながらアタシが協力させていただいた「植木等ショー!クレージーTV大全」(洋泉社刊)は「再分析」になっていると思います。
しかしこれとてメジャーな本ではないわけで、結局マイナーに再分析するしかないのであって、メジャーな金がかかる方面はまったく手付かずになっています。本当はメジャーどころが再分析しないといけないんだけど。

何か長々書いて最後は結局自慢かい、といわれそうですが、まあそんなもんです。