2012年4月26日木曜日

カーネーション、世間とアタシの反応

今年の三月まで放送されていた「カーネーション」、何度かちょろちょろとここにも書いていたのですが、実は初回から見ているわけではないんですね。総集編で一応補完はしましたが。

カーネーションにたいする評価は時期でほぼ分類できます。
1.2011年年末まで
2.主人公の不倫騒動(当然劇中で)
3.主役交代まで
4.主役交代以降
こんな感じですか。

昨年中は「えげつない関西弁が飛び交う一風変わった朝ドラ」みたいな感じからの感想が多かったように思います。
「今までの朝ドラにない主人公の言動が新鮮」
「朝からあんなどぎつい関西弁を聴くのは勘弁」
受け取り方はいろいろですがどちらも焦点は同じです。

年が明けて主人公の不倫が物語の中心になると、注目度と視聴率の両方が一気に上がります。
賛否は当然あるものの、否定的な意見も朝ドラの主人公が不倫をすることにたいする否定で、つまりドラマにハマってる状態なんですね。

不倫騒動が終わり、主役が尾野真千子から夏木マリへ交代するまでが、ある意味安定期であり、安定期ってのは批評的な意味で、ですが。

さて主役が夏木マリに代わってからです。
ここから否定論が多数を占めるようになりますが、ほぼ二つに集約できる。
「夏木マリの関西弁が気になる」
「ドラマとしてのパワーが落ちた」

ここまでアタシは自分の意見を抜きに書いてきましたが、実はどっちもおかしいのです。
まずこの物語は実在の人物をモデルにしています。コシノヒロコ、ジュンコ、ミチコ三姉妹(いうまでもなく三人とも名のしれたファッションデザイナー)の母親であり、自身もファッションデザイナーの先駆者的存在であった小篠綾子その人です。
この人の人生を俯瞰で眺めるとよくわかるのですが、「自分の娘を三人とも有名デザイナーに育てた」ことではなく「70歳を過ぎて自身のブランドを立ち上げ、死ぬ直前まで現役だった」ことの方がはるかに凄い。
つまりは主役が夏木マリに交代して以降がこの物語の本編なんです。尾野真千子時代は壮大なプロローグといえなくもない。
「夏木マリ以降の老成した主人公は描くべきではなかった」という意見を見ましたが、もし70歳以降の話がないと前菜だけで終わったことになってしまうし、それでは小篠綾子という人をモデルにした意味がなくなると思うのですね。

最後にループさせたのも素晴らしい。あれは楽屋落ちでも手前味噌でも何でもない。
だって小篠綾子の人生は肉体が死んでも実はまだ終わっていないってことを暗示してるんだから。小篠綾子は自身の人生が朝ドラになることを切望し、死んでから5年も経って実現したんだから本当に終わっていない。
「主人公が死んでからもまだやりたいことやってる」
そんな朝ドラ、いやフィクションありましたか?

夏木マリの関西弁がおかしいってのも変で、晩年マスコミに頻繁に登場していた小篠綾子の当時の映像を見ると結構標準語が混じってるのです。
考えてみれば当たり前の話で、中央に進出して標準語圏の人と接する機会が増えたんだから多少混じって当たり前なんですよ。
それよりアタシは夏木マリの演技を評価したい。
世間的に絶賛された尾野真千子を受け継ぎ、しかも生前の小篠綾子と交流があった、つまり両者の落とし所が非常に難しかったはずで(夏木マリ本人もそこが一番難しかったと語っていましたが)、うまく双方のイメージを取り込み、尚且つ新しい像を作ることに成功したと思います。

反対に尾野真千子は今後ちょっと苦しいかもしれません。
アタシが大絶賛した「ちりとてちん」ね、主役を演じた貫地谷しほりは恐ろしいほどの振り幅を見せましたが、引き出しを全部開けたという感じではなかった。まだ余力があると思わせたというか。
この辺が尾野真千子とは違う。
尾野真千子も貫地谷しほり同様実力派と呼べる人ですが、良くも悪くも一世一代の当たり役という感じが強く残りました。正直いってこれ以上の役に彼女が巡りあえる確率は限りなく低いと思う。
何いってんだ、今までまったく違う役柄を好演していたのを知らないのか、といわれそうですが、もちろん知ってます。しかしあの猛烈な役の前と後とでは絶対世間の見る目が変わるに違いないのです。

この辺はアタシが敬愛する植木等と似てるのかもしれません。植木等が無責任男の呪縛から抜け出したのは「見た目」が変わった50代後半からです。
尾野真千子がそこまでかかるのかはわかりませんが、少なくとも数年は「糸子」の呪縛が解けないんじゃないかな、そう思っています。

個人的な意見としては「カーネーション」は「ちりとてちん」よりも劣ります。しかし圧倒的に画期的なフィクションだったには違いない。今期の「梅ちゃん先生」(未見)の評判が芳しくないようですが、こんな圧倒的な作品の後だと相対的に評価が下がってしまうのはしかたない気がするのですがね。