2007年6月7日木曜日

変人はつらいよ・驚愕篇



夏の日差しは燦々と照りつけている。

まだ午前中だからいいようなものの

「こりゃ35度はいくな」などと、ひとりごちて

想定される過酷な一日を乗り切るしか手段はなかった。

およそ5人ほどのチームだったか。

私、やはりバイトとはいえ古株が3人、それに新人。

会場が広いため二手に分かれて撮影することになったのだが

似非カメラマン=私は、新人を無理矢理

押しつけられるはめになった。

レクチャーなんてもんはね、本来なら古株がやるもんだ。

「じゃ後、よろしく頼むね」

そうひと言言い残して、古株は古株同士

さっさと別の現場に行ってしまった。

なにがよろしく頼むね、だ。まったくいい気なものである。

いいか、いくらバイトとはいえ、こういうことは

古株がやると神代の昔から決まっているんだよ。

だいたいまだ自分のことで手一杯の私がレクチャーなど

できる余裕があるわけがないではないか。

しかもこの暑さ。なにしろ撮影場所が

だだっ広いグラウンドときたもんだ。

日陰を探すことすらままならないではないか。

それにな、これだけはいいたくないが

私はな、古株のお前さんたちより、だいぶジジィなんだよ。

夏生まれだから、暑さには強い方だが

もしぶっ倒れてみろ。熱射病だか日射病で死んでみろ。

絶対に化けてでてやるからな。ひんやりさせてやるからな。




まぁそれでも今よりは10は若かったから

幸いにして、こうして今もピンピンしているが

当時はパニックに近かった。

今にして思えば

古株のバイトも悪いが、ここの会社が一番悪い。

いくら教えることは簡単とはいえ

まだ新人同然の人間にレクチャーさせちゃいけないよ。

とはいえ、そんなとこでバイトをしている私が

一番悪いかもしれないが。




レクチャーは意外に楽だった。

新人は一応プロとして仕事をしているらしく

「フィルムはどうやって入れるんですか?」という

信じられないような質問をされることはなかった。

それに、新人とは書いたが、やたら落ち着いている。

なんというか変な貫禄がある。

が、どことなくインチキ臭い感じで

たとえるなら

ひと昔前の結婚詐欺師のような雰囲気を醸し出している。

レクチャーが簡単なら、撮影もあっという間に終わった。

午前中にすべての撮影が終わり

私たちはわずかばかりの日陰を見つけ

そこで一段落することになった。

「関西弁ですよね?」

新人が話しかけてきた。

場所が福岡なのだから、そういう指摘は慣れていた。

「実はぼくも関西出身なんですよ」

あ、そうですか。軽く受け流してはみたものの

数ヶ月とはいえ一応先輩として

会話の継続を試みた。

関西ですか、どの辺りに住んでいたんですか?、と。

貫禄からみるに、年上かもしれない、と想定して

とりあえず敬語で返答してみた。

「神戸、といっても田舎の方ですけど・・・」

神戸?こりゃまた奇遇な。

「知ってますかね。○○団地ってとこに住んでたんですよ」

○○団地!?

それは私が幼稚園の年少組の時に住んでいたところじゃないか!

というか、住んでいたのはその一年だけだが。

「ということはもしかして○○幼稚園でした?」

私は信じられなかった。

福岡のこんな場所で

まさか同じ幼稚園に通っていた人間に会うことになるとは!




それから彼とは急接近して友達になった、ということはなかった。

彼は私よりも3歳も年下だった。

にも関わらず、私はなんとなく、彼が怖かった。

妙に落ち着き払ったトークといい

怪しげな、おおよそカメラマンらしくない見た目といい

ただでさえ人見知りな私が、敬遠してしまう要素にあふれていた。




この不思議な男との交流が深まるには

もう少しの時間が必要である。

次回へ続く。