2007年6月14日木曜日

変人はつらいよ・再会篇



6月も半ばということで天気も安定しない。

が、私はこの季節が好きだ。

夏に生まれたことが関係あるのか、梅雨になると

「あと少しで夏の空が広がるんだ」と思うと

むしょうにわくわくしてくるのだ。

反対に冬は嫌いだ。

出かけることすら億劫になってしまう。

8年前の冬、寒さに弱い私は珍しく

某カメラ量販店にひとり出かけていった。

その頃はたしかに、写真撮影の会社でバイトしていたが

別にカメラに興味を持ってでかけたわけではない。

現在でこそ私は、デザインの仕事をさせてもらってるが

まだ当時は赤ん坊程度の技術しかなかった。

それでもパソコンは昔から好きで・・・と

この話を始めると長くなるのでやめるが

とにかく私は新しいパソコンの購入を検討していた時期で

掘り出し物を探しに、某カメラ量販店に出かけていったのだった。

店内に入るや否や、正面からあやしい顔が近づいてきた。

あの時の、新人バイトだった。

衝撃的な、あの夏の日以来、E(=あやしげな新人バイト)とは

なぜか同じ現場に入ったり、言葉をかわす機会はなく

事務所で顔を合わせることはあっても、会釈する程度であった。

ただでさえあやしげな男は

それを助長するかのような笑顔で近づいてくる。

「ちょうどよかった。話があったんです」

Eが話し掛けてきた。

何がちょうどよかっただ。どう考えても偶然じゃないか。

すぐに穿った見方をする私は

Eを端から信用してなかった。

「今ちょっと急いでいるので、また電話します」

どうせかかってくるわけがない。

Eの言葉を軽く受け流し、その場は終わった。

後日、本当にEから電話があった。

実はビデオカメラマンを探している。

ついてはきちんと説明したいので

いついつ、これこれに、足を運んでほしい。云々。

そういえば、夏のあの日、どういうわけか

私が大学時代、ビデオカメラマンのバイトをやっていた

みたいな話をしたことを思い出した。

しかし私がそのバイトをしていたのは、その時点から数えても

10年も前のことで、私の仕事内容は

「コードが絡まないように『気をつける』」ことだった。

こんな話を聞いておきながら

(というか、半年近く前にしたこんな

世間話をよく憶えていたものだ)

いったいEは、私に何をさせようというのか。

まさか本気でビデオカメラマンなるものを

やらせようと思っているのではあるまいな。

あのな、世間はそんなに甘かないぞ。

たしかに私とEの行っている写真撮影の会社は

極限なまでにテキトーなところだ。

だがしかし、そんな会社、めったやたらにあるはずがない。

もしそんな会社ばかりなら、とっくに日本経済は破綻している。

とにもかくにも、それから数日後、私は待ち合わせ場所に行った。

Eの説明はこうだった。

実は私の出入りしている撮影業者でビデオカメラマンを探しているが

いくら募集をかけても人がこず、どうにも閉口している。

あなたが素人同然なのは承知しているが

一応現場を経験しているので、まったくのビギナーよりは

多少は早く戦力になれるはずだ。

もちろんはじめの数回はプロがレクチャーについて

キチンと教えるので、ぜひやってほしい・・・・

どうにも断りづらい雰囲気になった。

しかもEとは同じ幼稚園に通っていたというよしみもある。

そこまで困っているなら

本当に素人同然ですよ,

どうなっても知りませんよ、

と、念を押して、結局引き受けることになった。

私をビデオカメラマンとして使おうとした無謀な会社

仮にNG社としておこう。

NG社からの仕事の発注は、FAXで行われる。

ところが当時私はFAXを持っていなかった。

ならば事務所に取りに行けばいいものだが、そうはいかない。

なぜならNG社は本社が東京にあり

私やEが住む福岡には事務所がないのだ。

しょうがない。

Eは自分が誘った手前、FAXごときも持ってない私のために

ひと肌脱いでくれることになった。

私宛の発注FAXはEの元に送られる。

私はEからFAXが届いたという電話をもらうと

Eの自宅付近まで取りに行く。

私にとってもEにとっても、面倒にもほどがあるが

これしか方法がなかった。

しかしこのことがあって、警戒心の強い私と

Eとの距離が縮まっていく。

最初は本当に届いたFAXの受け渡しだけだったが

少しずつ会話の量が増えていき

受け渡し場所である、Eの自宅付近のコンビニの前で

小一時間ほど話すことも珍しくなくなっていった。

だが私とEが、もっと本質的な意味で友好を深める事態が起こる。

それは図らずも、Eが私に紹介した撮影業者、NG社絡みの

馬鹿馬鹿しくも切実な、とある事件をめぐって、である。

次回へ続く